大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和29年(ウ)48号 判決

申立人 大阪地方裁判所 代表者 大阪地方裁判所長 村田正雄

相手方 乾徳蔵

主文

本件管轄指定の申立は、これを却下する。

理由

本件管轄指定の申立の理由は、別紙管轄指定の申立と題する書面に記載するとおりである。

よつて、按ずるに、本件の大阪地方裁判所昭和二八年(行)第八二号免職処分取消等事件において、相手方たる乾徳蔵が原告となり、申立人たる大阪地方裁判所を被告として、被告裁判所が、昭和二十四年九月十四日附をもつてなした原告に対する免職処分の無効を主張し、その取消ならびに右免職処分の日より右処分取消にいたるまでの間の給与の支払を求めているのであるから、右被告たる大阪地方裁判所は、行政事件訴訟特例法にいわゆる処分庁たる行政庁、即ち司法行政機関としての大阪地方裁判所を意味するものであることは、言うまでもなく、又右の被告裁判所が、司法行政を行うには、裁判官会議の議によらなければならないことは、裁判所法の明定するところであるが、裁判官会議の構成員と、司法行政機関たる被告裁判所とは、別個の存在であるから、右法上その裁判官会議が、本訴の管轄裁判所たる大阪地方裁判所に所属する判事(判事補の職権の特例等に関する法律により判事の権限を有する判事補を含む。以下同じ)を以て構成せられているからといつて、右判事たる特定の個人と、被告裁判所とが同一の地位に立つものということはできない。けだし、一般に行政庁とは、それが独任制であると、合議制であるとを問わず、国又は公共団体の行政機関として観念的な存在を意味し、この行政庁を構成する特定の個人を指称するものでないことは当然であり、さればこそ、行政庁は、その構成員の更迭にかかわらず、同一性を維持し、訴訟法上もこれがため当事者の変更を来さないものと解せられる所以である。そうであるから、本訴の管轄裁判所の判事と被告裁判所との間に存する前記の関係を以て民事訴訟法第三十五条第一号に規定する除斥原因たる「裁判官が当事者たるとき」とあるに該当するものとはなし難い。

又被告裁判所は、行政庁として、訴訟法上、形式的な当事者能力を認められているとは言え、もとより実体法上、人格を有するわけでなく、一に国の機関たることよりして、争訟利益の帰属するところも国であつて、被告裁判所の裁判官会議を構成する判事ではないし、又裁判の既判力も直接右の判事に及ぶというわけでないから、右判事を以て、本訴の実質上の被告又は被告に準ずべきものとして、除斥原因に該当するものと解することもできない。

従つて、申立人主張のように、管轄裁判所の判事の大多数が、本訴の目的たる行政処分に関する被告裁判所の裁判官会議に関与し、しからざる判事もまた被告が本訴の当事者として訴訟手続追行上なすべき意思決定に関しては、その裁判官会議の構成員として、これに関与すべき地位にあるとしても、このことを以て、裁判官が当事者たる被告に準ずべき立場にあると言えないのは、右説示に徴し自ら明らかなところである。

なお、一般に独任制の行政庁にあつては、その長たる構成員、合議制の行政庁にあつては、合議体の代表者たる構成員は、訴訟法上行政庁の法定代理人に準ずべきものとせられているが、被告裁判所においては、裁判所法上、司法行政は、裁判官会議の議によるにしても、同裁判所長がこれを総括する建前になつているから被告裁判所の所長は、しばらくおき、その余の判事は、被告裁判所の代表者たる地位に立つわけでなく、又従前代表者として本訴に関与したわけでもないので、前記法条第五号の除斥原因たる「裁判官が当事者の代理人なるとき又はなりしとき」とあるにも該当しない。

叙上の次第であるから、本訴について管轄裁判所の判事全部が、当然その職務の執行より除斥せられるわけでなく、従つて、民事訴訟法第二十四条第一項第一号に規定する、「管轄裁判所が法律上裁判権を行うこと能はざるとき」とあるに該当しないことは、言うまでもないから、同条に基く本件管轄指定の申立は、理由がなく、これを却下すべきものとする。

よつて、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 吉村正道 判事 大田外一 判事 金田宇佐夫)

管轄指定の申立

原告 乾徳蔵

被告 大阪地方裁判所

右当事者間の昭和二十八年(行)第八二号免職処分取消等事件において、原告は、被告が昭和二十四年九月十四日附をもつてなした原告に対する免職処分の無効を主張し、その取消ならびに右免職処分の日より右処分取消にいたるまでの間の給与の支払を求めている。ところで、被告のなした前記免職処分はその裁判官会議の議によつて行われたものであり、更に被告が本件訴訟の当事者として今後本訴訟手続の追行上諸々の意思決定をなすに際しては、もとよりその裁判官会議の議を経たうえこれをなさねばならない。

しかるに、本訴の管轄裁判所たる大阪地方裁判所々属の判事(判事補の職権の特例等に関する法律により判事の権限を有する判事補を含む。以下同じ)中、大多数の判事は、前記免職処分を決議した被告裁判所の裁判官会議に関与し、しからざる判事もまた被告の本訴訟の当事者として訴訟手続追行上なすべき意思決定に関してはその裁判官会議の構成員としてこれに関与すべき地位にあることは明かである。被告大阪地方裁判所の司法行政事務は同裁判所々属の判事をもつて構成せられる裁判官会議の議によつてのみ処理せらるべきものである以上、前記の如き意味においてその裁判官会議の構成員としてその決議に関与し、ないしは関与すべき地位にある判事は、本件免職処分取消等事件の当事者たる被告と同一の地位にあるものと解すべきである。

かりにしからずとしても少くとも右事件の被告たる当事者に準ずる地位にあるものと解するのが相当である。

しからば、本訴の管轄裁判所所属の判事全員につき存する前記事由は民事訴訟法第三十五条第一号の除斥原因に該当するから、右全判事は本件の職務の執行より除斥せらるべきである。

しかして、本件は現に、大阪地方裁判所第五民事部に繋属しているけれども右の事態により同法第二十四条第一項第一号の管轄裁判所が法律上裁判権を行うことができない場合に該当するから、被告大阪地方裁判所は直近上級裁判所たる貴庁に対し本件につき管轄裁判所の指定あらんことを申立てる次第である。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例